ここ最近は夏日が続き、10月にも関わらず半袖の装いが珍しくない。それでも夜になると肌寒くなり、虫の声が聞こえるのは、確かに秋のものである。
さて、そんな夜にふと食べたくなるものと言えば……そう、和食だ。夏にビアガーデンに行った反動?とにかくしっぽり飲みたいと、そう思ったわけである。
美味い酒、味がじわっと染み渡った料理。
うん、それしかない。
それしかないな。
ということで、向かったのは国分寺駅の商店街。昔ながらの商店街の中に佇むのは、小綺麗ながらその地に溶け込んだとある小料理屋であった。
これは……と、期待を膨らませながら入る私。
ということで、今回は秋に行きたくなる、しっぽり小料理屋のお話である。
しっぽり飲むにふさわしい料理たち
今回は、わだつみという、小料理屋にお邪魔した。
店内は、カウンターと半個室があり、2~3人で来ている客が多かった。
騒ぐ客はなく、まさに「しっぽり」の言葉が合う。
さて、そんな空気感も楽しんだところで、早速本日のお通しが来た。
にしんの煮物だろうか。これまた日本酒に合いそうな見た目だ。一口運ぶと、噛みごたえがある。しかしこれは決して固いという意味ではない。
ゆっくり身がほぐされ、噛むごとに味が染みだすのである。
ここで確信した。この店、絶対美味い。
濃厚なのにしつこくない。葱と生姜も、尖った味は全くせず、円やかで後味はさっぱり仕上げる。一杯目はビールにしたのだが、これは、最初から日本酒でも良かったなあと思いながら、次に来たのが明太豆腐のガーリックパン添え。
一見、洋風だが、ここにも和の工夫があった。
料理名の通り、これには豆腐が使われているのだが、これがまた、上手である。
明太子と混ぜ合わせてパテにしているのだが、豆腐を合わせることによって、ふわっふわに膨らみ、柔らかい口どけと上品な味わいに仕上がっている。パンも柔らかさを残し、パテとばっちり合う。
ワインも勿論合うだろうが、日本酒にも合うことは間違いない。
次は刺身三点盛りだ。これこそ和食の醍醐味。少し皮を炙ったのこと。
刺身は、素材が良いということも美味さの絶対条件だが、しかし一方で板前の包丁さばきだとか、それこそ炙りなどの技も、確かな味の構成要素である。
結論から言うと、絶品だった。
まろやかな甘みが、これまた日本酒に合うことこの上ない。 炙りを入れることで、程よく油も落とされている。
刺身が好きじゃなかったとしても、これは唸りながら食べること間違いなしだ。
さてお次は、旬の食材、柿とエリンギの白和えだ。
私が食べたのは確かに柿だったはずなのだが。まるで桃のような甘味。恐らく余分に調味料を使わず薄味なのだが、それがまた上品な味わいに仕上がっているのである。
思わず、リピートしてしまったのは、ここだけの話だ。
そしてこちらは炭火焼きのレンコン。
写真からも分かるように、穴が大きく、大きい蓮根だったことが見てとれる。随分と大きく切るのだなあと思って一口かじってみると、想像とは異なる食感。
レンコンなので、てっきり「しゃくっ」を予定していた私の脳だが、予想に反して私が感じたのは「ほくっ」という口触りととても甘い芋のような甘み。蓮根に無限大の可能性を感じた瞬間だった……。 炭火焼きというシンプルな料理からこんなにも感動を覚えるなんて。
そうしてほっこりしたところで、メインディッシュが来た。
鴨のローストである。
とろみのあるタレを少しつけると、なんとも美味しそうに私を誘う。
肉は食べやすいよう切り分けられていたのだが、これは、この大きさで食べるのが一番美味しいと思った。
そして、驚きなのはこの付け合わせのカボチャだ。焼かれているのだが、その焼き加減たるや……感服である。
まるで菓子のようなしっかりした甘みなのだが、これは素材本来の味だ。煮るのではなく、焼いたからこそ出る甘味がたまらない。
カボチャがあることで、次の箸は鴨を求めるようになってしまっていた。旨味のしっかりした肉なので、何か挟んで食べたいという気持ちをカボチャがしっかり受け止めてくれているのである。
非常に満足感のある一品だった。
そして、炭火焼きの茄子。味噌に付けるとこれがまた!心地よい苦味が、これまた酒に合うことこの上ない。さすが秋茄子、こちらもあっという間に食べ終わってしまった。
ここで、牛タンシチューが登場。
私は牛タンが大好物で、このシチューを独り占めしてしまいたくなる位だったが、なんとかそれを堪えて、大事に食べる。
やはりどこか少し和の風味がしており、身体に染み渡る心地がした。もっと食べたいという欲を掻き立てる、とても美味しいシチューだった。
そんなこんなで、随分お腹も満たされたところで、茶漬を頼んだ。
こんなに美味しい料理屋での〆を、なぜ頼まずにいられようか!と一人心のなかで意気込んだ。お分かりのように、ここまででかなり料理を頼んでいるのだが、出汁の良い香りが、私の胃袋を刺激して、まだ食べたいという気持ちにさせる。
湯に溶け出した魚の旨味はまさに極上の味わいであった。
そして、最後の料理はつみれだ。
茶漬の〆はどうした!というツッコミも聞こえなくもないが、食べられてしまうのだから、仕方ない。
さてこのつみれ、湯葉が惜しげもなく載っかっているのがお分かりいただけるだろうか。柔らかい触感のつみれと、何層にも重なった湯葉。そして優しい味わいの出汁が本当に美味しい。
真の〆の一品、まさに最高である。
数々のプレミア日本酒もラインナップに!毎日入れ替わる地酒たち
さて、ここで改めてこの店の日本酒について紹介したいと思う。
こんなに素敵な料理は、絶対に日本酒が合う。間違いない。ここでは、錫の入れ物に入った様々な日本酒を楽しむことができる。
そして、日本酒好きに朗報なのが、磯自慢や田酒、黒龍など、数々のプレミア日本酒がラインナップに入っているということである。
さらに、オーダーできる地酒はほぼ毎日入れ替わるという、なんとも贅沢な話なのである。季節で楽しめるひやおろしなどの酒も、もちろん入っている。
近くにあったら入り浸ってしまいそうなこのお店。日本酒好きは一度行ってみてほしい。
秋の夜長のさみしさを少し味わいたくなったら、ぜひ行ってほしい
調べてみたら、酒だけでなく、料理も毎日変わるようだ。
こんなに腕が良い板前さんの、旬の食材をふんだんに使った料理と酒が楽しめるなんて、なんて贅沢なのだろうか。
評判も非常に良いこの小料理屋。それでいて、静かでカウンター席もある。
秋のさみしさを味わいながら、しっぽり飲みたいそこの大人なアナタに、ぜひ行ってほしいと思う次第である。