ぼーっとしていたら11月。最高気温がいつの間にか10℃台で、夜になったらびっくりするほど寒いが、これを「秋が深まる」という表現に変えると、なんだかぐっとおしゃれになる。
さて、そうして秋が深まってきたこの頃、恋しくなるのは芋や栗や南瓜、そして……柿だ。毎年11月になると渋柿が送られてくるので、今年もこの季節が来たか、と干し柿づくりを始める。
干し柿が出来上がるまでは約1か月と、少し手間がかかるのだが、その分、自然と調和した穏やかな時間をゆったり過ごすことが出来る。今日も柿は元気かな?と軒下を除く日々。こんなゆったりした時間も悪くないということで、今回は柿を干すまでの過程を紹介したいと思う。
「干し柿の甘さは和菓子の最上」
まず初めに、皆さんは「和菓子の甘さは、干し柿をもって最上とする」という言葉をご存じだろうか。かの千利休も、茶席の茶菓子として振舞っていたことで有名だが、干し柿は平安時代から作られてきたものだと言われており、日本の食文化の中でも長い歴史のある食べ物だ。
実際に食べてみればすぐに分かるのだが、自然の力で甘味が凝縮された干し柿には本当に上品な甘さを感じる。人工的な甘味料がない昔の時代に、干し柿の甘さが格別だと珍重されてきたのには納得だ。
「木守」の風習
柿には毎年柿の木に一つだけ実を残すという「木守」の風習がある。
実を一つだけ敢えて残すことで、「来年も豊作になるように」という願いや、柿の種を遠くへと運んでくれる鳥たちへの感謝、そして自然への配慮が込められているのである。
この柿は基本的には渋柿であることが多い。というのも、渋柿はそのままでは味が渋すぎて食べられず、鳥たちのために甘くなるまで残しておくことで感謝を伝える意もあるのだ。
この自然への感謝が溢れた風習について、私は非常に素敵だなと思っているのだが、実は千利休も、とある茶碗に「木守」という銘をつけたものがある。今や茶道人ならだれもが知る楽焼の始祖である長次郎が作陶したもので、数個ある茶碗を弟子に取らせた際、一つ残った赤い茶碗にその銘をつけたのだ。
実は私もその写しの茶碗で抹茶をいただいたことがあるのだが、小ぶりながら峻峭な様相で、非常に心惹かれるものがあった。
干し柿の作り方
さて、私の柿への想いについて少し語らせていただいたところで、今回のメイン、干し柿の作り方について改めて書いていきたい。
干し柿作りは極めてシンプルな作業だが、手抜きをし過ぎるとカビが生えたり、固くなりすぎて美味しくなくなってしまうこともしばしば。それなので、ポイントは抑えつつ、自分の子供のような感覚で、毎日見守りながら作ってみてほしい。
必要な材料と準備
- 材料: 渋柿(※果肉が熟しすぎていないしっかりしたものがベター)、(あれば)ホワイトリカー
- 道具: はさみ、ピーラーもしくは包丁、紐(ビニールでも麻でもok)、物干し竿
干し柿作りの手順
➀柿を洗い、ヘタ周りの葉をハサミでカットする(※枝はカットしない)
柿のヘタ周りの長くなった葉っぱをハサミでぎりぎりまでカットする。ちなみに、葉を切っていない状態だと下記のような感じ。
②柿の皮を包丁もしくはピーラーでむく
早速皮を剥いていくのだが、少しでも皮を残すと、後々カビが生えてくる可能性があるので、ヘタの際の際まで皮を剥ききるのが重要なポイントだ。
③柿のヘタと枝の間をひもで結ぶ
枝に紐をしっかり結びつけておく。二重に結んだ方がより安心できるぞ。
ちなみに枝がないときは、太い串で一本指すのが良い……が、なかったので、今回はやむを得ず楊枝を使った。
④熱湯に5~10秒ほどつける
紐を持って柿を全体的に熱湯に5~10秒ほどくぐらせる。
⑤ハンガーに2~3個分の柿の紐を結んで吊るす
均等になるように柿をハンガーに吊るす。近すぎると、干す際に柿同士がぶつかって、最悪カビが生えてしまうので、だいたい普通のハンガーで3個くらい結ぶのがオススメ。
⑥ヘタ部分を重点的にホワイトリカーを吹きかけて、日当たり・風通しの良いところに吊るす
干す前に、ホワイトリカーを吹きかける。ちなみにこのホワイトリカー吹きかけ作業は、2~3日に1回くらいやると良い。というのも、アルコールによってカビを生えにくくするのだ。ヘタ周りは特に生えやすいので、重点的にシュッシュしてあげてほしい。
⑦もみ工程を繰り返す
とまあ、本日はここまでやったのだが、1週間ほどたち、柿が少し乾いたら柿を全体的に優しくモミモミして、均一な柔らかさになるように調整する。この作業も2~3日おきに繰り返していく。ここを怠らずにしっかりモミモミすると、干し柿がより滑らかな食感に仕上がって、とっても美味しくなる。
⑧3~4週間経ったら出来上がり!
表面が白く粉を吹いたら、柿から糖分が出たという証拠。これが出たら完成だ!自然の恵みをたっぷり味わおう。ねっとりした食感と上品で深い甘味が本当に最高。ゆっくり時間をかけただけあり、喜びもひとしおになるのである。
干し柿を使ったアレンジレシピ
干し柿は、そのまま食べても勿論本当に美味しいが、アレンジしてさらに楽しんでみても、酒のおつまみになったりしておすすめだ。
- クリームチーズと一緒に: 干し柿を細かく刻んでクリームチーズと和えるだけ!それだけで、絶品おつまみの完成だ。ワインとの相性も抜群。
- ヨーグルトと一緒に: プレーンヨーグルトと合わせると、ヨーグルトの酸味とよく合って絶妙な味わいに。朝食にもぴったり。
干し柿作りで感じるスローライフの魅力
干し柿作りを通して感じるのは、ゆっくり甘くなる柿を見守りながら楽しみに過ごすことが、「幸せ」だということ。忙しい日常から離れ、自然と向き合う時間を大切にできることは、まさに幸せに他ならないなのだ。
柿の甘みが増していく過程をじっくり見守ることで、心に余裕もできる。何もかもがスピード重視の現代社会で、たまにはこんなスローな時間も悪くないのではないだろうか?
秋から冬へと変わる季節のリズムを感じながら過ごすひとときは特別だ。ぜひ、そんな時間をあなたにも過ごしてほしいと思う。