ラテン語で「旅・道のり」を意味する一軒が、武蔵小金井にある。その名もイテル-iter-。店名のとおり、旅好きの店主が各地で出会った料理と酒を出してくれる店である。香港式の卵かけご飯、ポキ、メネメン、タコスなど世界中の味が並ぶ一方、小金井産の有機野菜や春菊などの地場野菜の旬を楽しむこともできる。旅と地元、その両端を一本の道でつないでいるのが、この店であった。しかもこの店、もとは南口でランチの「旅カレー」で知られた人気店だったそう。現在地へ移り、いまは「第2章」を歩んでいるこちらのお店を、今回は紹介させていただきたい。
※本記事は、イテル-iter-様のご提供のもと作成しています。

沿革——南口の人気店から、現在地の「第2章」へ
イテルを語るうえで外せないのが、その歩みである。この店はもともと、武蔵小金井の南口(小金井市本町6-5-3 シャトー小金井1F)にあった。前身の店名は「コガネイキッチン WAI」。やがて「黄金バル ITER」となり、地元で広く知られる人気店へと育っていった。
当時から掲げていたコンセプトが「人・酒・料理が旅するバル」。和・洋・エスニックを横断する創作料理に、小金井産の有機野菜を組み合わせるスタイルは、この頃すでに確立されていた。とりわけランチの「旅カレー」は名物で、二種盛りで提供されるカレーを目当てに通う客も多かった一軒である。
そして2017年10月、店は南口から北口側の現在地(小金井市本町5-18-8 メゾンエスポワール1F)へ移り、リニューアルオープンを果たす。メニューに記された「イテル第2章」とは、まさにこの移転からの新たな歩みを指している。長く愛された店が、場所を移してなお旅を続けている——名前の「旅(iter)」が、店の歴史そのものと重なっているのだ。
店名「iter」の意味
イテル(iter)はラテン語で「旅」「道のり」を指す語である。英語の itinerary(旅程)や、フランス語の itinéraire の語源にあたる。「旅先で出会ったものを持ち帰り、人と縁をつないでいく」という店のコンセプトと、移転を経て「第2章」へ進んできた歩みの、両方を背負った名前といえる。
旅好きの店主・匠さんと、スパイスという個性
店主の匠さんは、根っからの旅好きなのだとか。たとえば先日訪れた高知で美味しかった柚子を仕入れて使うというような調子で、旅で出会った食材や料理が、そのままメニューへ反映されていく。香港式卵かけご飯、ポキ、メネメン、タコスといった世界各国の顔ぶれは、どれも気になる。
メニューには「匠のオススメ」という見出しがある。てっきり職人技の意かと思えば、店主その人の名前が匠さんなのであった。こうした人柄のにじむ仕掛けが、店のあちこちにある。
そして全体を貫くのがスパイスだ。タンドリーチキンはもちろん、付け合わせのピクルス一つとっても香りが豊かで、ひと口ごとに「どこか遠い土地」を思い出させる。旅を看板に掲げる店ならではの個性が、味の隅々にまで通っている。
実食レポート:旬と旅が交差する皿たち
定番もよいが、この店は旬を活かしたつまみが抜群に良かった。以下、印象に残った順に紹介する。🌟は特におすすめの一皿である。
お通し:コーンポタージュ(500円)

お通しは500円。コーンポタージュにバゲットが添えられて出てくる。鮮やかな赤い色味はピンクペッパー。とうもろこしの甘みがしっかり立った滑らかなスープで、ピンクペッパーがぴりりと効いているのがとても良い。
お任せ前菜盛り合わせ(1,200円/一人前)

今回のおまかせ前菜盛り合わせの内容は、小金井産有機野菜のサラダ・生ハム・ドライフルーツ入りクリームチーズ・ピクルス・タコとセロリのマリネ・鶏のパテ。地元野菜から旅の保存食、自家製のパテまで、この店の引き出しが一皿に凝縮されている。クリームチーズはドライフルーツの甘みと酸味が練り込まれ、クラッカーにのせると止まらない。鶏のパテはなめらかで濃厚、バゲットによく合う。そしてピクルスはスパイスの効きが強めで、ここにも店の個性がしっかり顔を出していた。1,200円でこんなにたくさんの種類のつまみが出てくるとは……と驚いた。少しずつ色々つまめるので、最初の一皿に迷ったらこれを頼んでおけば間違いない。
タンドリーチキン(800円)

鶏もも肉にスパイシーな香りが立ちのぼり、表面は香ばしく、中はジューシーに焼き上がっている。これをトルティーヤに野菜と一緒に巻いて食べる仕様だ。
皿の上で完結させるのではなく、自分の手で巻いて一口にまとめるのは、敢えてなのだろうか。旅先の屋台などを思わせる。スパイスの風味や鶏の旨み、レタスの瑞々しさ、もっちりした生地がたまらない。

🌟 春菊ジェノベーゼ(1,300円)

バジルの代わりに小金井産の春菊をジェノベーゼに仕立てた一皿。春菊特有のほろ苦さと、鼻に抜ける独特の青い香りが、オイルとチーズのコクでまろやかに包み込まれ、ほどよい苦みが心地よく残る。麺にはたっぷりの春菊の葉とすりおろしチーズがのり、見た目にも鮮やか。バジルのジェノベーゼに慣れた舌には、新鮮な驚きがあり、これは是非とも家で真似したくなる使い方だった。
🌟 ホワイトアスパラの粒マスタードソテー(800円)

太く瑞々しいホワイトアスパラを2本、粒マスタードのソースで仕上げた一皿。火の入り方が絶妙で、噛むとアスパラの繊細な甘みとほろ苦さがじゅわりと広がる。そこへ粒マスタードの酸味と、プチプチした粒の食感がアクセントを添える。旬の素材を、余計な手を加えず一番おいしい瞬間で出されており、シンプルながら印象に残った。
🌟 台湾パイン・デコポン・生ハムとブッラータチーズ(1,200円)

テーブルの主役になる華やかな一皿。甘い台湾パインとデコポンのフルーツに、塩気の効いた生ハム、とろりとミルキーなブッラータ、清涼感のあるミントが盛り合わせてある。ひと口で頬張ると、まず果実の甘味と酸味、生ハムの塩味、最後にミントの香りがすっと抜けていく。フルーツとブッラータチーズといえば今や定番で、さらにそこには生ハムという贅沢さ。見た目の彩りも美しく、写真映えも申し分ない。
バスクチーズケーキ(550円)

締めはバスクチーズケーキ。表面はしっかりと焦がして香ばしい苦みをまとわせ、中はとろりとなめらか。チーズの濃厚さに対して甘さは控えめで、お酒のあとにちょうどよい。この内容で550円という価格も良心的で、満足感のある幕切れであった。
旅するお酒——桜・ジン・ビール・ワイン
料理だけでなく、酒もまた「旅」でつながっている。店主が選ぶラインナップは、土地や物語を背負ったものが多い。選書ならぬ選酒のセンスが光っていた。
小金井桜ハイボール(660円)

桜の名所として知られる小金井にちなんだ、土地ありきの一杯。桜の花の塩漬けがグラスに浮かべてあり、ひと口飲むとほのかな塩味と、桜の塩漬け特有のやわらかな香りが鼻に抜ける。甘すぎず、すっきりとした飲み口で、最初の乾杯にも食中にも合う。土地の名前をそのまま味にする、その目配せがうれしい一杯である。
PYT(ピュット)のジントニック(900円)

PYTはデンマーク語で「気分を切り替える」ときに使う言葉だという。猫が紳士の装いをしたボトルが目を引くこのジン、実は小金井に拠点を置くクラフトジンで、旅をテーマにする店で地元生まれの一本に出会えるのも嬉しい符合だ。マスカットのように香るエルダーフラワーを主役に、アールグレイやカルダモン、カモミールなどを重ねた華やかな仕立てで、トニックで割っても香りがきれいに残る。
ガージェリー グレートエクスペクテーションズ(1,000円)

ガージェリーは、飲食店だけで出会えるビール。この「グレートエクスペクテーションズ」は、2種の酵母で二段階発酵させたアルコール9%の力作である。注ぐと琥珀色に厚い泡が立ち、ひと口で甘みとコク、麦の旨みがぐっと押し寄せてくる。度数は高めだが角がなく、飲み疲れしない。スパイスの効いた料理を受け止める懐の深さがあり、タンドリーチキンやバスクチーズケーキともよく合った。
ガージェリーとは
ガージェリー(GARGERY)は、飲食店限定で流通する国産プレミアムビール。2002年にキリンビールの社内ベンチャーとして生まれ、2007年に独立した株式会社ビアスタイル21が手がけている。自社の醸造所を持たず、製造をエチゴビール(新潟)に委託する「ファントムブルワリー」の日本における先駆け的存在である。無ろ過・非加熱で瓶内熟成させているため、瓶底に酵母が残ったり、にごりや沈殿が見られることもあるが、品質には問題ない。
そしてブランド名は、チャールズ・ディケンズの小説『大いなる遺産』に登場する心優しい鍛冶屋の名に由来する。今回いただいた「グレートエクスペクテーションズ」は、まさにその原題(Great Expectations)をそのまま冠した一本。2種の酵母による二段階発酵で、アルコール度数9%・ボリュームのある飲みごたえに仕上げてある。名前にまで物語が宿っているのが、いかにもこの店にふさわしい。
ITER カベルネ・ソーヴィニヨン(グラス850円)

店名と同じ名を持つ、カリフォルニアのカベルネ・ソーヴィニヨン。果実味が豊かでタンニンはやわらかく、スパイスの効いたタンドリーチキンに合わせると、肉の旨みと赤い果実の風味が気持ちよく重なる。そして特筆すべきは裏ラベルだ。そこには「人生は直線ではなく螺旋を描く旅であり、その一周ごとに、失敗からも成功からも学びを得て、本来の自分へと立ち返っていく」という趣旨の一篇が綴られている。店名イテル=旅の世界観と、ワインのメッセージがそのまま響き合う。
エリア知識:桜の名所・小金井のこと
小金井桜と玉川上水、そして小金井公園
イテルのある武蔵小金井は、古くから桜の名所として親しまれてきた土地である。小金井桜ハイボールの背景を知るうえでも、押さえておきたい。
- 小金井桜
- 江戸時代に玉川上水の堤沿いへ植えられた山桜の並木で、江戸近郊を代表する桜の名所として親しまれてきた。現在は国の名勝に指定されている。
- 玉川上水
- 多摩川の水を江戸市中へ引くために開かれた用水路。その堤が、桜並木の舞台となった。
- 小金井公園
- 玉川上水沿いに広がる広大な都立公園で、約1,800本の桜が植えられた花見の名所。園内には「江戸東京たてもの園」もある。
「桜の名所」という土地の記憶が、小金井桜ハイボールという一杯に受け継がれている。背景を知ると、味わいがもう一段深くなる。
こんな人におすすめ
- スパイスや世界各地の料理が好きで、知らない味に出会いたい人
- 地元・小金井産の旬の食材を味わいたい人
- 店主のこだわりや物語ごと、お酒や料理を楽しみたい人
- 武蔵小金井で落ち着いて飲める一軒を探している人
- クラフトジンやガージェリーなど、ここでしか飲めない酒を試したい人
店舗情報

| 店名 | イテル-iter- |
|---|---|
| 住所 | 〒184-0004 東京都小金井市本町5-18-8 メゾンエスポワール1F |
| 電話 | 080-1121-1663 |
| 営業時間 | 17:00〜22:00(火・水・木・金・土/祝日・祝前日・祝後日) |
| 定休日 | 月曜(日曜は不定。営業日は公式インスタグラムで要確認) |
| お通し | 500円(混雑時は2時間半制) |
| 支払い | クレジットカード、PayPay・楽天ペイなどの電子決済 |
| 最寄り | JR中央線「武蔵小金井」駅 |
| 沿革 | 南口(本町6-5-3 シャトー小金井1F)の人気店から、2017年10月に現在地でリニューアルオープン(「第2章」) |
| 公式インスタ | @koganebar_iter |
| 公式サイト | https://bar-iter.com/ |
※公式サイトのアクセス情報は旧住所の記載が残っている場合がある。最新の所在地・営業日は公式インスタグラムでの確認をおすすめする。
まとめ
イテルは、ラテン語で「旅」を意味する名のとおり、旅で出会った味と、小金井の旬とを一本の道でつなぐ店であった。店主・匠さんの「人・酒・料理が旅するバル」という思いが通っている。南口の人気店として愛され、現在地へ移ってなお歩みを止めない。武蔵小金井で、知らない世界に少しだけ足を踏み入れたい夜に。「イテル第2章」の途中へ、ぜひ立ち会いに行ってみてほしい。
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この記事を書いた人:らむこ
おいしいものと人の温かさを探して、あちこち食べ歩いています。
レビュー歴10年以上、Googleレビューでは全国上位5%のレビュアーとして活動中。ブログやSNSでは、料理の味だけでなく、空間や人柄、ちょっとした気づきまで伝わるようなレポートを心がけています。
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