右手にはワインを、左手にはビールを。

美味しいの裏側には、作り手のストーリーがある。Google飲食店レビュー2,000万回閲覧の酒好きが綴る食と酒のノンフィクション。

元は半導体工場?勝沼「MGVsワイナリー」でIWC金賞の甲州を飲み比べてきた

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半導体工場が、ワイナリーになった。冗談のような話だが、山梨県甲州市勝沼町に実在する。その名はMGVs(マグヴィス)ワイナリー。半導体加工会社・塩山製作所が2017年、自社工場をリノベーションして立ち上げたワイナリーである。

ウエーハを守っていた窒素ガスはぶどうの酸化防止に。クリーンルームは発酵と瓶詰めの部屋に。ものづくりの技術がそのままワイン造りに受け継がれた、日本でも珍しい一軒だ。

今回はテイスティングメニューをひと通り体験してきたので、その様子を詳しく紹介する。この日の飲み比べには、IWC2025金賞受賞ワインも登場した。

※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。車・自転車を運転される方へのテイスティング提供はありません。

MGVsワイナリー周辺に広がる勝沼のぶどう畑と山並み
ワイナリーの周囲にはぶどう畑が広がる

半導体工場がワイナリーになるまで

MGVsワイナリーの母体は、半導体のダイシング加工などを手がける株式会社塩山製作所である。勝沼工場として稼働していた建物を改装し、2017年4月にワイナリーとして生まれ変わった。MGVsは「Matsuzaka Green Vineyards」の頭文字。オーナーの松坂浩志氏が家業のぶどう園を継承し、大のワイン好きが高じてワイン事業への参入を決めたという経緯を持つ。

面白いのは、半導体製造の技術がそのままワイン造りに活きていることだ。

たとえば窒素ガス。半導体工場では、シリコンウエーハを酸素や水分から守るために窒素を使う。MGVsではこの技術をぶどう果汁の酸化防止に転用しており、屋外に立つ液化窒素のタンクは半導体時代から使われてきたものだという。ほこりを徹底的に排除するクリーンルームは、発酵・瓶詰め・保管の部屋として現役だ。タンクの温度管理システムやテイスティング用のワインサーバーに至っては自社製である。

MGVsワイナリーのガラス張りのエントランス外観
ガラス張りのエントランス。「YES, WE ARE OPEN」の札が迎えてくれる

ショップの床や什器にも工場時代のアルミ材が再利用されており、内装は雑貨店のように洗練されている。ガラス越しにタンク室や瓶詰室を自由に見学できるので、大人の社会科見学としても楽しい空間だ。

MGVsワイナリーの店内。ワインや雑貨が並ぶショップ
ショップにはワインのほか書籍やアパレルも並ぶ

甲州とマスカット・ベーリーAだけ。畑ごとに仕込むテロワール主義

MGVsが扱うぶどうは、日本固有品種の「甲州」と「マスカット・ベーリーA」の2つだけである。流行の国際品種には手を出さず、勝沼で古くから育てられてきた品種に絞り込む。この徹底したローカル主義が、MGVsのワイン造りの土台になっている。

畑は勝沼を中心に、一宮、穂坂、山梨市などに点在し、畑ごとに仕込みを分ける。ワイナリーのすぐ横を流れる日川がつくった扇状地は水はけがよく、川沿いを抜ける風がぶどうの香りを育てるのだという。醸造責任者は、ワイン造り40年以上のエノロジスト・袖山政一氏が務める。

【知識ボックス】MGVsを支える2つの日本固有品種

甲州(こうしゅう)
山梨を代表する白ワイン用品種。1000年以上前から栽培されてきたとされ、和柑橘を思わせる香りと穏やかな酸が特徴。和食との相性がよい。MGVsでは白ワインと白スパークリングに使われる。
マスカット・ベーリーA
川上善兵衛が交配した日本生まれの黒ぶどう。いちごやキャンディを思わせるチャーミングな香りが持ち味で、渋みは穏やか。MGVsでは赤・ロゼ・ロゼスパークリングに使われる。

ワイン名は「アルファベット+3桁数字」

MGVsのワインには、いわゆる商品名がない。すべて「K235」「B153」のような記号で呼ばれる。これは半導体の型番文化を受け継いだ命名体系で、記号を読み解けばワインの中身が分かる仕組みになっている。

【知識ボックス】ワイン名の読み方

頭のアルファベット
K=甲州(Koshu)、B=マスカット・ベーリーA(Bailey A)。
数字の1桁目
ぶどうの収穫地。1=勝沼町、2=一宮町、3=穂坂町など。5はGI Yamanashi(山梨県産)を表す。
数字の2桁目・3桁目
仕込み方と製造方法。たとえば末尾の7はタンク内二次発酵(シャルマ方式)、8は瓶内二次発酵のスパークリングを示す。

つまり「K537」なら、山梨県産の甲州をタンク内二次発酵で仕上げたスパークリング、と読める。ラベルを眺めるだけで造りが分かる、理系らしい合理性である。

K・Bの記号が並ぶMGVsのワインボトル売り場
売り場にはK・Bの記号が並ぶ。テイスティングシートも用意されている

MGVsワイナリーのテイスティング体験レポート

テイスティングは有料で、グラスワインは30mlが250円から。少量ずつ試せるので、飲み比べに向いている。今回はおすすめメニューの3つをすべて注文した。

テロワールセット 日替わり3種(1,500円)

白・ロゼ・赤を1杯ずつ楽しめる飲み比べセット。銘柄は日替わりで、この日は次の3種だった。

白:K235 一宮町卯ツ木田 2020(甲州)
ロゼ:B521 GI Yamanashi 2024(マスカット・ベーリーA)
赤:勝沼町引前 2018(マスカット・ベーリーA)

驚いたのは白のK235である。IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)2025で金賞を受賞した、まさにそのワインだ。さわやかな香りに、じんわりと続く旨みの余韻。熟成による厚みも感じられ、甲州の奥行きを教えてくれる一杯だった。

ロゼと赤はどちらもマスカット・ベーリーA。3杯を並べると色のグラデーションが美しく、同じ造り手・同じ土地でも品種と仕込みでここまで表情が変わるのかと実感できる。ちなみにK235は単品だと8,800円のフラッグシップ。受賞クラスのワインを含む3種で1,500円という価格は、率直に言って驚きである。

テロワールセット3種のグラスとテイスティングシート
各ワインには詳細なテイスティングシートが付く

スナック付き白スパークリング「POSH」(土日限定・1,000円)

MGVsではスパークリングワインを「POSH(ポシュ)」という愛称で呼ぶ。いただいたのはK537 GI Yamanashi N.V.。タンク内二次発酵(シャルマ方式)で造られた甲州のスパークリングで、きめ細かい泡とフレッシュな果実味が心地よい。

セットのスナックは黒胡椒のパスタスナック。ピリッとした刺激が泡とよく合い、手が止まらなくなる組み合わせだった。

ぶどうジュース 赤(300円)

ドライバーや子ども向けには、ぶどうジュースが用意されている。ワイン用ぶどうの世界観をアルコールなしで体験できる一杯で、果実味が濃く、ジュース単体でも満足度が高い。運転で来たら潔くこちらを選び、気になったボトルを持ち帰るのが正解だろう。

白スパークリングPOSH(K537)と赤のぶどうジュース、ロゼ・赤ワインが並ぶテイスティングトレー
左が白スパークリングPOSH(K537)、中央が赤のぶどうジュース。黒胡椒のパスタスナック付き

樽の香りを嗅ぎ比べられるオークチップ

カウンターには、フレンチオークのチップが入った小瓶が3種類置かれている。トーストの度合いが異なるチップの香りを嗅ぎ比べると、ワインの「樽香」の正体が体感できる。こうした小さな仕掛けにも、来訪者に楽しんでもらおうという姿勢がにじむ。

カウンターに置かれたフレンチオークチップの小瓶3種
トーストの浅い順に香りを比べると違いがよく分かる

【エリア知識ボックス】勝沼はなぜ日本一のワイン産地なのか

日川がつくった扇状地
ワイナリーの横を流れる日川は、大菩薩嶺から勝沼へまっすぐ流れ下る急流。長い年月をかけて水はけのよい扇状地をつくり、ぶどう栽培に適した土壌を育てた。
寒暖差と風
盆地特有の昼夜の寒暖差に加え、川沿いを抜ける風がぶどうの香りを引き出す。勝沼に30以上のワイナリーが集まる理由である。

【訪問メモ】

  • 週末の日中に訪問。テイスティングは待たずに楽しめた。所要は見学込みで1時間ほど。
  • 駐車場はワイナリー前。EV充電器の設置もあり。
  • 店内はFree Wi-Fiあり。窓際のカウンター席からはぶどう畑と山並みを一望できる。
  • カウンターにタクシー会社の電話番号一覧あり。飲む場合は電車+タクシーでの訪問が安心。
  • 畑は関係者以外立ち入り禁止。ぶどうには触れないこと。

こんな人におすすめ

  • 勝沼でワイナリー巡りを計画している人
  • 日本ワイン、特に甲州やマスカット・ベーリーAに興味がある人
  • 工場見学やものづくりの物語が好きな人
  • 受賞ワインを少量ずつ、手頃な価格で試したい人
  • 運転や家族連れでも楽しめるワイナリーを探している人

店舗情報・アクセス

店名 MGVs(マグヴィス)ワイナリー
住所 山梨県甲州市勝沼町等々力601-17
アクセス 中央自動車道 勝沼ICから車で約6分/JR勝沼ぶどう郷駅から車で約10分、JR塩山駅から車で約12分
営業時間 10:00〜16:00(平日は12:00〜13:00昼休憩あり、土日祝は通し営業)
定休日 火曜(12〜3月は火・水曜)、年末年始 ※臨時休業あり
テイスティング 有料(グラス30ml 250円〜)。醸造施設はガラス越しに自由見学可
支払い方法 クレジットカード各種/交通系IC/電子マネー(iD・QUICPay等)/QR決済(PayPay・d払い・au PAY・楽天ペイ等)
設備 駐車場あり(EV充電器あり)/Free Wi-Fiあり
公式サイト https://mgvs.jp/
備考 車・自転車を運転される方へのテイスティング提供なし。カウンターにタクシー呼び出しの案内あり。20歳未満への酒類提供・販売なし

※営業時間・メニュー・価格は変更される場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。(2026年7月訪問)

まとめ

半導体工場の技術と美学を受け継いだ、勝沼でも異色のワイナリー・MGVs。窒素ガスやクリーンルームといった工場の遺産がワイン造りに活き、ワイン名の記号体系にまで理系のDNAが貫かれている。

それでいて、扱うのは甲州とマスカット・ベーリーAという土地の品種だけ。テクノロジーとテロワールが同居する一軒である。

IWC金賞クラスを含む飲み比べが1,500円から楽しめ、ドライバーや子ども向けのぶどうジュースまで用意されている懐の深さも魅力。勝沼ワイナリー巡りの一軒に、ぜひ加えてほしい。

※20歳未満の飲酒は法律で禁止されています。飲酒運転は絶対にやめましょう。

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この記事を書いた人:らむこ

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