春の訪れを感じると、自然と和の情緒に触れたくなる。この季節だから、花見を楽しんだ方も多いのではないのだろうか。
しかし、そんなときにこそ訪れたいのが、東京都八王子にある懐石料理店「鶯啼庵(おうていあん)」。
家族での食事会で利用したのだが、食事中の桜を愛でながらいただく旬の懐石料理は、日本人であることを嬉しく思えるような、そんな時間になった。法事や大切な集まり、季節の贅沢ランチを探している方などにもおすすめ。
そんなもてなしの席にもピッタリの場所について、今回は紹介していきたい。
鶯啼庵とは|「うぐいすの鳴く庵」に込められた想い
「鶯啼庵」という店名の由来は、中国・唐の詩人 杜牧による叙情詩『江南春』の一節、
「千里啼鶯 緑映紅(せんりにうぐいすなき みどりこうをえいす)」にあるという。
遠くまで鶯の鳴き声が響き渡り、新緑と紅花が美しく映える春の情景。
この詩のように、鶯の声が響き、花々が咲き誇るようなやすらぎの庵であってほしいという想いが込められている。
敷地内には茶室や広大な日本庭園があり、美しいしだれ桜が咲いていた。いつ訪れても自然を堪能できる、素晴らしい風景がそこにあった。
待合には様々な骨董品が
少し早く来てしまったので、待合室で少し待たせていただくことに。
日本画や食器など、様々な骨董品が飾られていて、まるで博物館のようだ。飽きるどころか、ここでも粋を堪能させていただいた。
桜とともに春限定の懐石を楽しむ
今回は春の食材をふんだんに取り入れた懐石コース。シンプルな調理法の和食だからこそ、五感を使って味わわせていただける感覚。
先附 春野菜の桜酢和え降臨笹見立て 春野菜 蟹身
先附の「春野菜の桜酢和え」は、笹に包まれて登場する演出から心をつかまれる。
笹の香りがふわりと立ち、シャキッとした春野菜と甘酸っぱい桜酢、蟹の旨みが調和した、春の幕開けにぴったりの一品。
旬菜 炙り筍の土佐蒸し 削り鰹
旬菜の「炙り筍の土佐蒸し」は、香ばしく炙られた筍に削り鰹をたっぷりまぶし、上から熱々の出汁を注ぐことで、ふわっと立ち上る香りがなんともたまらない。
筍の皮が敷かれることによって、上品な出で立ちに。
この先の部分、三角形と曲線の品のあるセクシーさがいいなぁ……。
そしてこの筍、なんと美味しいことだろう。身体が喜んでいるのを感じる。
ほくほく感が引き立ち、繊細な出汁の風味にも思わず笑みがこぼれてしまう。
向附 旬の鮮魚の小鉢盛り 山葵
向附の「旬の鮮魚の小鉢盛り」は、桜の花模様と小舟の器に盛られたお刺身が、木板に載せられて運ばれてきた。
恐らく、川の流れを板目に見立て、小舟から桜の花筏を眺めている様子を表現しているのだろう。
和食ではこういう景色の様子の見立てがあるのがたまらない。
この料理に関しては、シンプルな刺身かもしれないが、旬の魚を四季を感じさせる景色と共に、まさに御馳走とばかりに食せるのは、何とも幸せなことである。
椀物 海老真丈桜花見立て
椀物は「海老真丈 桜花見立て」。
桜の花に見立てた海老真丈の上に鱚、蕨、木の芽をあしらい、まるで一輪の花を浮かべたような上品な椀だ。
出汁の澄んだ味わいが身体にも心にも沁み渡り、海老真丈に載せられた蕨や木の芽も、春の訪れを感じさせてくれる。
八寸 針魚手毬寿司等
お次は八寸。オシドリの入れ物があまりにも可愛らしい。
蓋を開けると、おっと……、ここにも桜の花びらを忍ばせていたようだ。
桜を探すのが楽しくなる、この感覚はまさにワクワク。
この料理はまさに春の宝箱。
針魚の手毬寿司や鰊木の芽焼き、イイダコと桜花玉子の串打ち、白魚と蕗の煮凝り、わらび烏賊、浅利と独活の木の芽、鶯豆腐……。
多彩な品々が少しずつ味わえる楽しさ。ひとつひとつに細やかな細工が施されていて、まるでひな祭りの御膳のような愛らしさである。
焼物 筍と鴨ロースの挟み焼き 若桃 長芋
次は「筍と鴨ロースの挟み焼き」。鴨のしっとりとした肉質と、ほんのり甘い若桃、食感を添える桜色に染まった長芋が絶妙なハーモニー。
春の滋味が凝縮されたような一皿だ。
御食事 桜海老としらすの土鍋ご飯
さて、こちらのコースもそろそろ終いの時間が近づいてきた。
土鍋の蓋を開けると、思わず頭をフリフリしたくなるような御馳走の香りが。ふっくらと炊かれたご飯の中に、香ばしい桜海老としらすがたっぷりと入っている。
香の物と椀物を一緒にいただき、ほうっと一息。
目にも美しく、最後の一口まで春を感じさせてくれた。
水菓子 桜カステラ巻 うすい豆ブランマンジェ 春果物のようけ盛り
最後は水菓子。和の焼き菓子と果物が上品に盛られてやってきた。
桜やうすい豆といった旬の食材が用いられ、優しい甘さが余韻を彩ってくれた。
どの料理にも、ひとつひとつに「春を届けたい」という料理人の想いが感じられ、ただ美味しいだけでなく、五感すべてで春を堪能するひとときであった。
器や盛り付けにも春の風情が込められていて、目でも舌でも春を満喫できる内容。
まさに“花より懐石”という言葉がぴったり。
庭園は散策も可能
素敵な懐石料理を提供して頂いたこちらの鶯啼庵だが、散策も楽しめるとのこと。
滝の音に癒され、庭園で四季折々の植物を楽しめるのが素晴らしい。
ライトアップもされ、ロマンチックな空気を味わうことが出来る。
アクセス・店舗情報|送迎サービスや予約も安心
店舗情報は下記の通り。予約や問い合わせはこちら。
●所在地
〒192-0025 東京都八王子市尾崎町129
Tel:042-691-5500(予約・問合せ)
●営業時間
11:30〜21:30(最終受付19:00)
※土日祝・繁忙期は変更の可能性あり
定休日:水曜(繁忙期は営業あり)、年末年始
●アクセス
車:中央道八王子IC第2出口より約3分
タクシー:JR八王子駅より約13〜15分/昭島駅から約20分
バス:西東京バス「尾崎」下車 徒歩5分
駐車場:80台完備(大型可)
●送迎サービス
6名以上で送迎可能(要予約・前日まで)
送迎場所は要相談とのこと。
完全予約制ではないものの、特に週末や花見シーズンは事前予約が確実。
苦手な食材の相談や個室利用の要望も柔軟に対応してくれる。
まとめ
「鶯啼庵」は、まさに“和の美”を五感で味わえる場所。静寂に包まれた日本庭園、器や盛り付けに込められた季節の表現、そして丁寧に仕立てられた一皿一皿の懐石料理。
日常を離れて、ゆったりとした時間を過ごしたいときにこそ訪れたい、まさに“現代の隠れた名庵”であった。
春は桜、夏は青もみじ、秋は紅葉、冬は雪景色。どの季節に訪れても、それぞれの風情が楽しめること請け負いである。
家族の集まりや大切なお祝いごとはもちろん、静かに季節を愛でたいときにもおすすめの一軒。
美しい日本の四季に、そっと寄り添ってくれるようなおもてなしを、ぜひ一度味わってみてはどうだろうか。
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