クラフトジンが一気に増えた今、「個性」や「珍しさ」ではなく、基準になるジンをつくろうとしている場所がある。
それが、東京都八王子市にある、東京八王子蒸溜所。
見学ツアーに参加して分かったのは、この場所で作られる「トーキョーハチオウジン」というジンが、深い設計思想に基づいたものだということ。
今回はそんな見学ツアーの様子や、「トーキョーハチオウジン」についてご紹介させていただきたい。
- 東京八王子蒸溜所とは?
- まずは「ジュニパーベリー」体験!ジンの主役を、まず噛んで理解する
- ベーススピリッツの選択|なぜ焼酎ではなく、コーンスピリッツなのか
- 蒸溜設備と品質管理|“再現性”を担保する仕組み
- 最後まで「ブレを作らない」ための工程
- おすすめの飲み方|理由が分かると、ジンはもっと美味しくなる
- 東京八王子蒸溜所のジン・テイスティングレビュー
- 作り手さんの「一番好きなジン」もオーダー
- OWNER’S HISTORY|クラフトなのに“再現性”を捨てなかった理由
- 東京八王子蒸溜所の併設バーと基本情報
- まとめ|「信頼」で選ばれる蒸溜所
東京八王子蒸溜所とは?

東京八王子蒸溜所とは、京王線狭間駅から徒歩8分ほどの場所にある、八王子市のクラフトジン蒸溜所だ。
かつてジンの原料であるジュニパーベリーが薬酒として扱われていたこと、また八王子が薬の神様・薬師如来を祀る地であるという歴史的背景から、東京八王子蒸溜所は単なるクラフトジン蒸溜所という枠を超え、土地の記憶と酒の成り立ちを重ね合わせた「ここでやる意味」を明確にしながら、日々の酒造りに向き合っている。
伝統の精神と先進技術をかけ合わせたクラフトジン造りの挑戦は、流行や派手さを狙ったものではない。
原料選びやボタニカルの構成に至るまで、一貫した思想に基づいた設計がなされている点が、この蒸溜所の大きな特徴だ。
八王子という土地性、薬酒としてのジンのルーツ、そして現代のクラフトスピリッツ文化──それらを一本のストーリーとして再構築している点に、東京八王子蒸溜所ならではの価値があると言えるだろう。
また、EUで定められたロンドンドライジンのスピリットと製法を継承しながら、日本の水質や味覚、飲み方に寄り添う形で再解釈したジン、「トーキョーハチオウジン」という新たなスタンダードを提示している点も特筆すべきポイントだ。
東京から発信する東京八王子蒸溜所が目指しているのは、「一部のマニアのための酒」ではない。
飲み手にも使い手にも長く信頼され、日常の中で選ばれ続けるスピリッツであることを前提に設計されている。
まずは「ジュニパーベリー」体験!ジンの主役を、まず噛んで理解する

東京八王子蒸溜所では、蒸溜所の見学ツアーが不定期開催されていて、予約はこちらから取ることが出来る。
ツアーでは、作り手の方から直接話を伺えるという贅沢仕様。
まずはジンが薬酒であったという由来について話を伺い、ここのクラフトジンを詰める茶色の薬瓶のような見た目の瓶を見せてくれた。

ジンはEUの規則上、最低アルコール度数などの定義が定められているスピリッツで、少なくともEU圏では37.5%以上が前提になる。
※国やカテゴリ(Gin/Distilled Gin/London Gin)で要件が異なるため、ここでは「最低度数の基準がある」ことだけ押さえておく。
そんなジンの原料として一番重要な、ジュニパーベリーを食べ比べさせていただくことに。
12~15℃の冷蔵庫の中に様々なボタニカルの要素となるセミドライの原料が保管されており、その中にはもちろんジュニパーベリーも用意されていた。
ジュニパーベリーは針葉樹で、日本だと北海道や岩手県、静岡県や京都府などが産地なのだそう。
ちなみに世界の産地としてはイタリアが多いとのこと。

東京八王子蒸溜所では、
- セルビア産
- 北マケドニア産
この2種をブレンドして使用しているそうだ。
噛んでみると、その違いは明確だ。
北マケドニア産は、標高が高いため油分が多いつくりとなり、その結果香りが強く、甘みが豊かな味わいに。
そしてセルビア産は、北マケドニア産に比べると輪郭がはっきりし、引き締まった味わいだった。
普段食べる機会のないジュニパーベリーを食べて、「ジンの味は、ジュニパーで決まる」という言葉が、知識ではなく体感として腑に落ちた。
これだけでも非常に貴重な体験だ。
ベーススピリッツの選択|なぜ焼酎ではなく、コーンスピリッツなのか

国内クラフトジンの多くは、焼酎をベースにしている。
一方、東京八王子蒸溜所が選んだのは、欧州から輸入したニュートラルコーンスピリッツ。
もちろんそこには理由があり、本場EUの美味しいドライジンを作りたいという想いのもとコーンスピリッツを輸入しているとのこと。
これにより、キレのある味わいが作り出されていて、さらに日本ならではの口当たりの優しさを両立させるべく工夫をしているのだとか。
ちなみに、この小さなタンクでまずボタニカルを漬け込み、その後大きいタンクに入れるとのそうだ。

蒸溜設備と品質管理|“再現性”を担保する仕組み

蒸溜器は、ドイツのKohte社製。
素材は銅から出来ており、銅製だと酒質がまろやかになるのだそう。
味がまろやかになると言えば、錫の酒器を思い出す方もいるかもしれないが、実際に蒸溜器には錫の合金を使ったものや、他にはステンレス、ガラス製などがあるそうだ。
加熱方法も特徴的だ。
焦げ付きを防ぐため、直火ではなく高温スチームを使用。
蒸溜器の下部(ステンレス製)からスチームを送り込み、内部のスクリューで中身を攪拌しながら、ボタニカルが沈まないようにしている。
アルコールは78.3℃で沸点を迎え、ボタニカルの香り成分とともに気体となって上昇し、トラム式蒸溜器へと移動する。
このトラム部分にはプレートが設けられており、その開閉によって、通過する気体の「軽さ=ボタニカルの量」を調整できる仕組みだ。
プレートが閉じ気味になると、より軽く、アルコール度数の高いドライな酒質に。
逆に開くほど、ボタニカルの要素が多く残り、相対的にアルコール度数は抑えられ、香り豊かな仕上がりになる。
そうして選ばれた気体は、冷水で冷やされた筒を通ることで再び液体となる。
ここから先に行われるのが、「カット」と呼ばれる味の最終調整だが、この工程で強調されていたのは、「感覚だけに頼らない」という姿勢だった。
ヘッド・ハート・テイル|なぜ「ハートだけ」を取るのか
蒸溜の過程で得られるアルコールは、大きく3つに分かれる。
- ヘッド
- ハート
- テイル
一般的な蒸溜所では、どこで切り替えるかという、いわゆる「カットポイント」は、職人の味覚や経験に委ねられることが多い。
一方、東京八王子蒸溜所が採用しているのは、各種バロメータが測れるセンサーによるオートマチックなカット方針。
理由は、きわめてシンプル。
- 人が味見すると酔う
- 属人性が出る
- 味がブレる
だからこそ、毎回「いちばん美味しい部分=ハート」だけを、数値で正確に切り取る。
クラフトでありながら、工業製品レベルの再現性を持つ。
ここに、東京八王子蒸溜所のものづくりの核がある。
では、残りの部分はどうなのか。
ヘッドは、アルコール感が強く荒々しい。
テイルは、温度が上がることで香りも味も濃くなり、例えるなら漢方薬のような風味になるのだという。
蒸溜所によっては、前回のテイルを次の仕込みに加える方針を取ることもあるそうだ。
しかし東京八王子蒸溜所では、味の不確定要素になり得るものは入れない。
その判断もまた、「毎回同じ美味しさを届ける」ための選択なのだ。
最後まで「ブレを作らない」ための工程

蒸溜が終われば完成、というわけではない。
その後に行われるのが濾過工程だ。
油分は酸化を進め、香味劣化の原因になるため、珪藻土を含む濾過板を何枚も重ねて、丁寧に漉していく。
そして、ついに打栓して、最後にラベリングしたら完成。
1ロット400〜450本を、同じ精度で繰り返す。
おすすめの飲み方|理由が分かると、ジンはもっと美味しくなる

さて、見学が終わったら、次は実際にジンを楽しませていただく。
さらに、ジンそのものだけでなく、「どう飲むと一番良い状態になるか」まで丁寧に教えていただけるのだ。
ここでは、特に印象に残ったジンソニックとお湯割りの作り方を紹介していきたい。
ジンソニックの作り方

キレを最大化する、理屈のある一杯。
ジンソニックは「ジン+トニック+ソーダ」というシンプルな飲み方だが、ポイントはしっかり冷やすこと。
教えていただいた手順は下記の通り。
- グラスにしっかり氷を詰める
- マドラーで20回ほどステアしてグラスを冷やす
- 出てきた溶け水を一度捨てる
- ジンを約30ml注ぐ
- もう一度軽くステアして、液体をしっかり冷やす
- トニックウォーターを全体の6〜7割まで注ぐ
- ソーダを加える
- 氷をすくい上げるイメージで一周だけ軽くステア
- ガーニッシュを添えて完成(今回はドライレモン)
なぜこの手順なのか
- しっかり冷やすことで、炭酸ガスが逃げにくくなる
- 混ぜすぎると、香りより先に炭酸が抜けてしまう
- 最後は「混ぜる」より「なじませる」感覚が正解
ジンを冷凍して提供するバーもあるが、ここでのステアはジンそのものを冷やすための工程という意味合いなのだそう。
結果として、キレがありつつ、香りが散らないジンソニックになるのだ。
ジンのお湯割り|実はハーブティー感覚で楽しめる
次に教えてもらったのはジンのお湯割りだ。
一般的に、ジンなどの4大スピリッツはお湯割りにするとアルコールが立ちすぎて飲みにくくなることが多い。
ただし、ハーブ感の強いジンは別で、まるでハーブティーのように楽しめるのだ。
作り方のポイントはこちら。
- グラスは事前にお湯で温めておく
- ジン:お湯の割合は1:1(もしくは1:2)
- お湯の温度は約78℃が目安
秋や冬の寒い季節には本当にピッタリで、普段から燗酒など温かいお酒に抵抗のない方にはかなりおすすめ。
東京八王子蒸溜所のジン・テイスティングレビュー

東京八王子蒸溜所が作る3種類のジンをテイスティング。もちろん気に入った場合は、購入することも可能。
簡単なテイスティングのレビューを共有したい。
トーキョーハチオウジン CLASSIC(45%)
和柑橘のレモンと甘夏のピールに、カモミールとエルダーフラワー。
ロンドンドライのキレを軸にしながら、角の立たないやわらかさを持つ一本。
ストレートでも、カクテルベースでも輪郭が崩れず、ひと口で「ベースがいいジン」だと分かる安定感がある。
使用ボタニカルは12種。
ジュニパーベリーを中心に、柑橘、スパイス、フローラルが過不足なく重なり、主張しすぎないのに、存在感はしっかり残る。
(ジュニパーベリー/レモンピール/甘夏ピール/ビターピール/コリアンダーシード/アンジェリカルート/リコリスルート/カルダモン/カシアバーク/クローブ/ジャーマンカモミール/エルダーフラワー)
トーキョーハチオウジン ELDER FLOWER(40%)
伝統的なボタニカル構成をベースに、甘夏とエルダーフラワーの香りを前面に出した、華やかさの際立つジン。
砂糖不使用とは思えないほど丸い飲み口で、非常にフローラル。それでいて重さや甘ったるさはなく、すっとほどける。
ジンが好きな人はもちろん、「ジンは少し苦手」と感じている人にも、無理なくすすめられる一本だ。
さまざまなジンを飲んできたつもりだが、この華やかさは本当に印象的で、他に代えがたい存在感がある。
ちなみに44%バージョンも試飲でき、あまりに気に入ってしまい、思わずそちらを購入してしまった。
(ジュニパーベリー/レモンピール/甘夏ピール/コリアンダーシード/アンジェリカルート/リコリスルート/カルダモン/カシアバーク/クローブ/エルダーフラワー)
トーキョースパイスジン TOKYO SPICE GIN(41%)
その名のとおり、スパイスを主役に据えた一本。
ジュニパーベリーを軸にしながらも、ハーブの中でもスパイスに明確にフォーカスし、味わいを構成したクラフトジンだ。
マリーゴールドの華やかで甘く立ち上がる香りから始まり、クローブ・シナモン・カルダモンが重なり合い、厚みのあるスパイス感がボディを形づくる。
そしてジンジャーと胡椒の刺激が加わり、キレのある爽快な余韻へと一気に引き締めていく、という構想(=香りの立ち上がりから余韻までの設計意図)を、作り手の言葉で聞けたのが面白い。
香りは豊かだが、決して重すぎない。
カクテルとしてはもちろん、食中酒としても成立するバランス感は、このジンの大きな魅力だ。
クラシックでも、フローラルでもない。
スパイスをどう美味しく飲ませるかを真正面から考え抜いた、新しい方向性のクラフトジンと言える。
(ジュニパーベリー/マリーゴールド/ブラックペッパー/チリペッパー/ジンジャー/カルダモン/シナモン/コリアンダーシード/クミンシード/スペアミント/アンジェリカルート/レモンピール/甘夏ピール)
作り手さんの「一番好きなジン」もオーダー

併設バーでは、自社のジンだけでなく、他メーカーのジンも有料で飲み比べができる。
これまで説明してくれた方は、ジン作りだけでなく、現役でバーにも立つ方とのことで、私はこうお願いしてみた。
「あなた自身が一番好きなジンを、おすすめの飲み方でお願いします!」
その答えとして、「バレクステン ダブル ジン」をジントニックでいただくことに。
ジュニパーを主役にするための、2回蒸溜
まず「ダブルジン」という表記について伺った。
一般的なジンは、ジュニパーベリーと他のボタニカルを一緒に漬け込み、一度の蒸溜で仕上げることが多い。
だが、このジンは設計が違う。
- 1回目:ジュニパーベリーのみで蒸溜
- 2回目:再度ジュニパーに、他ボタニカルを加えて蒸溜
ジュニパーを2回使い、2回蒸溜する。
そのための「ダブルジン」だ。
ボタニカルを増やせば香りは強くなるが、同時にえぐみや苦味も出やすい。
このジンでは、最初の蒸溜でジュニパーの骨格だけをつくり、2回目で香りを重ねる。
結果として、
- ハーバルだが、主張しすぎない
- ストレートでも疲れない
- 割っても香りが暴れない
という、バーテンダーが使いやすい酒質になる。
ちなみに合わせているトニックウォーターはシュエップス。
割り材との相性も味の設計の一部で、甘味と苦味のバランスが安定しているため、ジュニパーの輪郭を崩さず、全体がきれいにまとまるのだそう。
……確かに、美味しい。
聞いてから飲むと、納得感が違う。
好みに合わせて、さまざまなジンでカクテルを組んでもらえる(もちろんストレートも可)ので、余裕があればぜひ試してみてほしい。
OWNER’S HISTORY|クラフトなのに“再現性”を捨てなかった理由

代表・中澤氏の実家は、70年続く製造業の町工場。
新しい価値をつくること。
安定して、同じ品質を出し続けること。
そして、それをきちんと多くの人に届けること。
その考え方は、コンセプトや言葉ではなく、蒸溜所のつくりそのものに表れている。
上から見下ろすと分かるのは、無駄のない動線と、整然と並ぶタンク群。
クラフト=少量・気分・偶然、ではなく、クラフトでありながら再現性を捨てない。
この設計があるからこそ、酒質はブレず、割っても崩れず、バーテンダーにとって「使いやすいジン」になる。
町工場のDNAは、そのまま、酒の性格になっている。
東京八王子蒸溜所の併設バーと基本情報

東京八王子蒸溜所
住所:〒193-0942 東京都八王子市椚田町1213-5
(京王線・狭間駅 徒歩8分)
併設バーの価格(※他メーカーのジンを注文する場合)
- ストレート:500円
- カクテル:1,000円
※併設バーは蒸溜所併設のテイスティングカウンター形式
※営業日は不定期のため、来店前に公式SNS等での確認推奨
※見学ツアーは不定期開催・予約制
まとめ|「信頼」で選ばれる蒸溜所
東京八王子蒸溜所のジンは、派手さや分かりやすい香りの強さで印象づけるタイプではない。
ジュニパーをどう立たせるか。
割ったときにどう振る舞うか。
安定して、同じ品質をどう届けるか。
そのすべてが、蒸溜回数・設備設計・酒質設計という「構造」で語られている。
70年続く町工場のDNAを背景に、少人数で、再現性と実用性を重視してつくられる酒。
だからこそ、ストレートでも、カクテルでも、飲み手や使い手を選ばず、きちんと応えてくれる。
併設バーでは、そうした設計思想を聞きながら、自分の好みに合わせて一杯を組み立ててもらえる。
ジンが好きな人ほど、一度は足を運んでみてほしい場所だ。
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この記事を書いた人:らむこ
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レビュー歴10年以上、Googleレビューでは全国上位5%のレビュアーとして活動中。ブログやSNSでは、料理の味だけでなく、空間や人柄、ちょっとした気づきまで伝わるようなレポートを心がけています。
日々の食がちょっと楽しみになるような、そんなヒントをお届けできたらうれしいです。