奥多摩駅から数分歩いた古い門構えの奥にある、とあるビール醸造所、それがVERTERE(バテレ)だ。
週末だけオープンしており、東京の最西端・奥多摩の水と空気で仕込んだクラフトビールを飲める。
今回はタップルームで2杯味わったあと、醸造所側のボトルショップにも足を運んだ。都心から1時間半、奥多摩の自然に癒されに来た一日。その締めくくりにここのビールを一杯いただくことが、何よりのパワーチャージになる。
それほどにここのビールは美味しい。都内では立川や永福、神奈川県では横浜にもタップルームがあるのだが、ここ奥多摩の本店で飲むのが一番だと思っている。
今回は、そんなおすすめの醸造所をご紹介していきたい。

奥多摩にクラフトビール醸造所がある意味
VERTEREが奥多摩を拠点に選んだ理由は、観光地としての立地ではなく、ビール造りに必要な水の質にある。
ビールは重量の9割以上が水で構成される飲み物で、仕込み水の硬度・ミネラルバランスが味の方向性をほぼ決定する。奥多摩は多摩川水系の源流域に位置し、ミネラルバランスの整った軟水が豊富に得られる土地。風景のためではなく、素材としての水のためにこの場所を選んでいる……。
そう理解した上で改めてラインナップを眺めると、各ビールに通底する「軽やかさ」と「繊細さ」の理由が見えてくる。
【専門知識コラム】奥多摩の水質とクラフトビール
ビールの仕込み水の硬度は、出来上がるビールのスタイルに直接影響する。硬水はスタウトやIPAなど苦味の立つビールに向き、軟水はピルスナーなどクリーンで繊細なビールに向く、というのが古くからの定石である。奥多摩の水は軟水寄りでミネラルバランスが穏やかなため、ピルスナーの優しい甘香や、ヘイジーIPAのフルーティさを素直に引き出しやすい。VERTEREのラインナップに軽やかさと繊細さが共通しているのは、水の性質が製品設計に反映されている証左である。
タップルームで飲んだ2杯
本店のタップルームは古民家を改装した造りで、天井の梁がそのまま剥き出しになっている。週末のみの営業で、観光客と地元の常連が混ざり合う独特の客層になる空間だ。

注文方式は番号札制。入店時に席で番号札を受け取り、紙メニューで決めたらカウンターで発注、お会計もここで済ませる流れである。決済は現金とPayPayのみでカード・電子マネー非対応なので、訪問前に手元を確認しておきたい。


今回いただいたのは以下の2杯。
ベルバリア(Pilsner / Alc 5.0% / IBU 17)パイント1,000円
グラスから先に立ってくるのは、ピルスナーらしいホップの青草感ではなく、ノーブルホップ由来のうっすらとしたハチミツのような香り。これは少し意外であった。
ピルスナーをこれまで数百種類は試してきた経験で言うと、苦味の余韻ではなく余韻に残る麦の甘みで記憶に残るタイプは多くない。
口当たりは軽く、IBU17の数値通り苦味はほぼ前に出てこない。クラフトビールという言葉に少し身構える人にこそ最初の一杯として勧めたい、間口の広さを設計した一本だと感じた。
パシフローラ(Hazy IPA / Alc 7.0% / IBU 19)パイント1,300円
対照的に、こちらはホップを前面に押し出した一杯。グラスを傾けるとパッションフルーツやマンゴーを思わせる甘い香りが立ち上がる。
注目すべきはIBU19という数値だ。ヘイジーIPAでこの数値は相当低い設計で、フルーツ香の華やかさを保ちながらも、苦味はほぼ感じない。「IPA=苦い」というイメージで距離を置いてきた人にこそ味わってほしい、入口設計の上手さが光る一杯である。

ベルバリアもパシフローラも、共通しているのは「奥行きを軽さの中に隠している」設計思想。これが奥多摩の軟水で仕込まれているという事実と、おそらく無関係ではないだろう。
【専門知識コラム】IBU値とは何か
IBUはInternational Bitterness Unitsの略で、ビールの苦味を数値化した国際指標である。数値が高いほどホップ由来の苦味成分(イソα酸)が多いことを示すが、必ずしも「高いほど苦く感じる」わけではない。麦芽の甘みや発酵由来の風味が苦味を打ち消す作用もあるためだ。
一般的な目安として、ピルスナーが20〜40、ペールエールが30〜50、IPAが40〜70程度。VERTEREのベルバリア(IBU17)とパシフローラ(IBU19)はどちらも低めで、ホップの苦味よりも香り・風味・口当たりを楽しむ設計になっている。

醸造所併設のボトルショップへ
タップルームで2杯飲んだあとは、ブルワリー敷地内にあるVERTERE Brewery & Bottle Shopへ。本店から少し離れた醸造所側に駐車場もあるので車でのアクセスも可能。土日11:00〜16:00と本店より閉店が早いので、訪問順は気をつけたい。

ショップは白を基調とした明るい空間で、同じく白地ベースに植物や風景を配したラベルデザインのボトルが整然と並ぶ。クラフトビールは派手なラベルが多い中、VERTEREの落ち着いた余白のあるデザインは、そのまま手土産として渡せるおしゃれさである。


購入したのはViburnum(INKHORN BREWING × VERTEREコラボ|500ml / 1,270円)

お土産に選んだのはViburnum──こちらはINKHORN BREWINGとVERTEREのコラボレーションで仕込まれた一本である。スタイルはBoysenberry Sour w/White Chocolateで、ボイセンベリーとホワイトチョコレートを加えたサワーエール。
原材料は、大麦麦芽・小麦麦芽・オーツ麦・乳糖・ボイセンベリー果汁・砂糖・ココアバター・脱脂粉乳・全粉乳・ホップ。乳製品とカカオバターをここまで入れたサワーエールは、これまで扱ってきた中でも珍しい部類に入る。
開けると果実の甘い香りに、奥にホワイトチョコレートのミルキーさが続く。口に含むと先に控えめな酸が立ち、その後を脂質由来の丸みが追いかけてくる。スイーツとしての完成度を持った一本である。
サワーエールの酸味が苦手な人にも入りやすい設計で、デザートの代替として冷蔵庫に常備しておきたいタイプだ。
【専門知識コラム】サワーエールという選択
サワーエールは、乳酸菌や野生酵母などを用いて発酵させる、酸味のあるビールの総称である。ベルギーのランビックや、ドイツのベルリナーヴァイセなどが古典的なスタイルだが、近年のクラフトビールシーンでは果実や乳糖・カカオなどを加えたパティスリー的な解釈の自由度の高いサワーエールが人気を集めている。VERTEREのViburnum(Boysenberry sour w/white chocolate)は後者の系譜にあたり、酸味・果実・乳・カカオという一見バラバラな要素を、サワーエールというフォーマットで一本にまとめ上げた挑戦的な一本といえる。
奥多摩日帰りで立ち寄りたい一軒
VERTEREは、奥多摩という土地の素材をビールの設計に落とし込んでいるブルワリーである。1時間半かけて訪れる価値があるかどうかと問われれば、軽やかさと繊細さの理由を実際に飲んでぜひ確かめてほしいとお伝えしたい。
週末限定のタップルーム、醸造所併設のボトルショップという二段階の楽しみ方が用意されているのも親切だ。奥多摩観光の帰りに、定番ではないお土産を探している人にこそ手に取ってほしい一軒である。
なお、奥多摩駅周辺は出汁巻き卵専門店「卵道」との組み合わせがおすすめ。昼に卵道で出汁巻き定食、その後VERTEREで週末の一杯というのが、個人的に奥多摩グルメを満喫できるオススメスポットである。
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店舗情報
VERTERE Okutama Taproom(本店)
| 住所 | 東京都西多摩郡奥多摩町氷川212 |
| アクセス | JR青梅線 奥多摩駅 徒歩1〜2分 |
| 営業時間 | 土日 11:00〜19:30(Food L.O.18:00 / Beer L.O.19:00) |
| 定休日 | 月〜金、不定休あり |
| 予約 | 不可(来店順の案内) |
| 決済方法 | 現金・PayPay(カード・電子マネー不可) |
| @vertere_okutama |
※決済はカード・電子マネー非対応。現金またはPayPayのみなので、訪問前に準備しておくと安心である。
VERTERE Brewery & Bottle Shop
| 住所 | 東京都西多摩郡奥多摩町氷川1099(VERTERE醸造所敷地内) |
| 営業時間 | 土日 11:00〜16:00 |
| 定休日 | 月〜金 |
| 駐車場 | 15台 |
※最新の営業状況・醸造ラインナップは公式Instagram(@vertere_okutama)等で確認いただきたい。
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この記事を書いた人:らむこ
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