(写真引用:https://www.millesimes.co.jp/wineinfo/wineinfo-799/)
突然だが、皆さんには「ライバル」が存在するだろうか。
自分と競い合う相手、そして高め合う相手。それがいわゆるライバルという存在だが、人生においてこういった存在は実は貴重なものであるように思う。素直に他者の功績を認めたうえで、自分を見つめ直し改める機会があるのは、幸運極まりないことである。
さて、今回はワイン業界において、その丁寧な仕事ぶりから他のライバル生産者からも畏敬の念を抱かれる偉大なブルゴーニュの生産者について紹介していこうと思う。
一族に伝わる熟練の栽培手法と卓越した醸造技術
(写真引用:https://www.millesimes.co.jp/wineinfo/wineinfo-799/)
ロベール・グロフィエのドメーヌは、フランス・ブルゴーニュのモレ・サン・ドニ村の中心に構えられ、レ・ザムルーズ最大の所有者で、偉大な生産者として知られている。
ロベールと息子のセルジュ、孫のニコラの3人がワイン造りに携わっていたが、ロベールは引退。その後もロベールは畑仕事に精を出す生粋のブドウ栽培家だったのだが、残念ながらこの世を去ってしまった。
しかし同じ血の流れる家族全員、熟練のブドウ栽培と卓越した醸造手法を持ち、変わらずブルゴーニュのトップを走り続けている。
このドメーヌのフラッグシップはグラン・クリュのボンヌ・マールとシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ。小さな畑だが、クリュの規範となるようなワインを造り出している。
ロバート・パーカーも注目した丁寧な仕事ぶり
(写真引用:https://www.millesimes.co.jp/wineinfo/wineinfo-799/)
グロフィエのドメーヌにはロバート・パーカーもしており、著書『ワイン・バイヤーズ・ガイド第 5 版 世界のワイン フランスのワインⅡ』では次のように取り上げている。
ロベールの息子セルジュの丁寧なブドウ作りが、ロベールの熟練し、素晴らしく才能に富んだワイン作りと結びついて、この畑の品質を目がくらむばかりの高みに引き上げている。ライバルである他のブルゴーニュの栽培者たちは、彼の作るブドウに畏敬の念を抱いている。
また、ロバート・パーカーが創刊したことで知られるワイン専門誌・ワインアドヴォケイトの元テイスターであり、パーカーの右腕として大きな信頼を得ていたアントニオ・ガローニが独立して立ち上げたことで有名で、同じくワインアドヴォケイト誌の大黒柱と言われたニール・マーティンも移籍した「Vinous(ヴィノス)」という有料ワインサイトでの評価にも、その仕事ぶりについて書かれている。
ヴィノス2020 年 12 月掲載2019年ヴィンテージに関する記事より抜粋|記者:ニール・マーティン
ニコラ・グロフィエは現在、ずっと滑らかで、よりシルキーかつ洗練されたワインを生み出しており、彼らのテロワールが表れている。
「9 月 12 日に収穫を開始し、9 月 20 日に収穫を終えた。」と彼は語った。「早朝、7 時から 1 時にかけて急いで収穫した。収穫したブドウは良質だった。クラッシックでフレッシュなワインを作るには、少なすぎるよりも少し多く収穫したほうがいい。アルコール度数は最大で 13 度あった。マロラクティック発酵は、通常よりかなり遅く、瓶詰めは 1 月の予定だ。これは、“ヴァン・ド・ギャルド”と言えるシリアスなヴィンテージだ。」他のヴィンテージと比較するように言うと、しばらく思考を止めた後、彼は答えた。「2019 年には、2016 年ヴィンテージに感じられる塩味とアロマがあり、少し苦みがある。2019 年は、春のような“リュミエール・フロワド”(涼やかな光)がある。」
驚くべき存在感のあるシャンベルダン・クロ・ド・ベーズ、豪華で知的なシャンボール・レ・ザムルーズ、ホールバンチ果汁 100%とすぐにわかるボンヌ・マール、これらを頂点としたグロフィエの 2019 ヴィンテージもまた深く印象的なラインナップとして加わった。これらのワインは、熟成を要するかもしれないが、その後に味わう喜びがある。
こうした評価からもわかるように、地位に満足して怠ることなく、非常に丁寧な仕事を果たし続けているドメーヌであることは言うまでもない。
クリュごとのテロワールを見事に表現するワインたち
(写真引用:https://www.millesimes.co.jp/wineinfo/wineinfo-799/)
先に書いたように、このドメーヌのフラッグシップのワインは、グラン・クリュのボンヌ・マールとシャンベルタン・クロ・ド・ベーズ。
とりわけ、ドメーヌのすぐ南に広がっているボンヌ・マールは、濃厚な黒系果実の香りと凝縮感を備えており、長期熟成にも見事に耐えられる逸品である。
ニコラ・グロフィエは全房発酵を好む造り手であるが、ヴィンテージにより除梗する柔軟性も見せている。
また、このドメーヌはシャンボール・ミュジニー・レ・ザムルーズの最大の所有者でもあり、「恋する乙女たち」という名のプルミエ・クリュの全畑の5分の1の畑を手にしており、村に入るとグロフィエの持ち畑を示した看板が見えてくる。その畑のワインは官能的な芳香にあふれる女性的な味わい。テロワールを直接的に表現している。
そう、グロフィエはモレ・サン・ドニのドメーヌでありながら、シャンボール・ミュジニーのレ・サンティエ、レ・オー・ドワの畑も所有する。そのため、魅惑的なシャンボール・ミュジニーたちを比較した試飲をするのも一興である。
上位ランクから一般的なランクのワインまで、一切妥協のない造り手のため、ブルゴーニュ・パストゥグラン一つとっても一切見逃してはならない作品なのである。
ブルゴーニュ・パストゥグラン
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収量が抑えられるためか、ガメイが15~20%含まれているが、100%ピノ・ノワールと見紛うばかりに洗練された味わい。瑞々しい果実味があり、気軽に飲んでしまうには惜しい品質の仕上がりになっている。
シャンボール・ミュジニー・レ・ザムルーズ
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グロフィエが畑を最大所有するプルミエ・クリュ「レ・ザムルーズ」は数あるブルゴーニュのプルミエクリュ畑の中でも最高峰の人気と品質を誇っている。
畑が表土の浅い急峻な斜面であるためか、他の造り手のレ・ザムルーズと比べてたっぷりと日照を浴びた快活さが感じられる。よく熟したラズベリーやブラックベリーのニュアンスがあり、しなやかで滑らかな喉越しが楽しめる。アフターフレーバーにはミネラルのエレガントさが長く続く。評判通りのグラン・クリュ並みのステイタスに相応しいワイン。
シャンベルタン・クロ・ド・ベーズ
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シャンベルタン特有の筋肉質で骨格のしっかりした味わいだが、充実した果実味がタンニンを和らげているあたり、グロフィエらしさがあるワインとなっている。 セルジュ・グロフィエによると「ボンヌ・マールよりミネラルがある」とのことだ。 熟したカシスやブラックベリー、ダークチェリーのアロマが心地よい逸品で長期熟成にも向いている。
ボンヌ・マール
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グロフィエのフラッグシップであるボンヌ・マール・グラン・クリュは、果梗の柔らかなニュアンスが微かな胡椒や大地の香りとなって現れ、鮮やかな黒果実のアロマと絶妙に溶け合っている。しなやかなタンニンと粒子の細やかな酸を持ったバランスの良さを兼ね備えており、後味はフルーツ・コンフィのニュアンスが微かに感じられるが、フレッシュ感を保っており、極めて美味で上質な味わい。
最上級のワインは、丁寧な仕事から出来上がる―――。
グロフィエはそれを体現している造り手であることはもはや誰も疑わない。
決して気安く購入できる値段ではないかもしれないが、皆から一目置かれるそのワイナリーの一作品を楽しむ機会を、ぜひ持ってみてほしい。