フレンチのコースで、スペシャリテとしてコンソメが供されることがある。
スープがスペシャリテ? そう思うかもしれないが、実はコンソメとは、フレンチの技術の粋を集めた究極のスープ。
透き通る琥珀色の液体は、一見シンプルに見えるけれど、その一杯を完成させるまでには、驚くほどの時間と手間がかかる。素材の旨味を極限まで引き出し、濁りのない澄んだ味を作り上げるには、高度な技術が必要。そのため、コンソメはシェフの実力が試される料理とも言われている。
実際、先日訪れた「ラ・グランド・メゾン東京」でも、牛と鶏のコンソメを層にし、その間にクリームチーズと豆乳を固めたものを挟んだスペシャリテが供された。
澄み渡っているのは色味だけではない。一点の曇りもない味わいに、やはりコンソメとはただのスープではなく、料理として完成された一品なのだと改めて実感した。
では、そもそもコンソメとは何なのか? 家庭で作ることは可能なのか? 市販のコンソメキューブとはどのように違うのか?
本記事では、コンソメの本質に迫り、その奥深さを解き明かしていく。
コンソメとは?意外と知らないその正体
「コンソメ」とは、フランス語で「完成された」という意味を持つ言葉。その名の通り、長時間かけて素材の旨味を引き出し、雑味のない澄んだスープへと仕上げるのが特徴だ。
フレンチの基本となるスープにはいくつかの種類があるが、コンソメはその中でも特に技術を要することで知られている。
例えば「ブイヨン」は肉や野菜を煮込んで出汁を取るが、コンソメはそこからさらに澄ませ、時間をじっくりかけて味を洗練させる。
濁りのない琥珀色のスープは、一流の技術の証なのだ。
古くは18世紀のフランス宮廷料理にまで遡るとされ、当時は王侯貴族のための特別な料理だったそうだ。現代では、スープとしてそのまま提供されるほか、ソースやリゾットのベースとしても活用され、フレンチにおいても欠かせない存在となっている。
そんなコンソメはなぜそんなに大変と言われているのか?なんとなく時間がかかるということは想像がつくかもしれないが、実は思った以上に手間がかかる代物なのである……。
なぜコンソメ作りは手間がかかるのか?
コンソメが「究極のスープ」と称される理由は、その工程の複雑さにある。澄んだスープを作るためには、ただ肉や野菜を煮込むだけではなく、いくつもの技術が必要とされている。
伝統的なコンソメの作り方
コンソメ作りの基本となるのは、まず「ブイヨン」をとること。牛や鶏の骨、肉、香味野菜をじっくり煮込んで出汁を抽出する。この時点ではまだ濁りがあり、コンソメとは呼べない。
次に、「クラリフィケーション(清澄化)」の工程に移る。ひき肉(通常は牛や鶏)に卵白、香味野菜を加えた「ライヤル」と呼ばれる混合物を鍋に入れ、ゆっくりと加熱する。すると、アクや脂肪分、不純物がライヤルに絡みつき、スープの表面に浮き上がってくるのだ。これを慎重にすくい取りながら煮ることで、スープが透き通っていく。
さらに、必要に応じてガーゼなどで濾し、完璧な透明度を目指す。仕上げに塩や調味料で整え、ようやく完成となる。
コンソメ作りの難しさ
この工程には、温度管理、アクの取り方、濾し方など、細かな技術が求められる。火加減を誤ると濁りが出てしまい、雑味が残ることもある。そのため、シェフたちは温度や加熱時間を徹底的に管理しながら仕上げるのだ。
ちょっとした油断が雑味に繋がってしまうなんて、なんて恐ろしい……!
また、完成までに数時間〜丸一日かかることも珍しくない。素材の旨味を極限まで引き出し、なおかつ透明度を保つというのは、決して簡単な作業ではない。
だからこそ、フレンチの世界ではコンソメを「シェフの技量が試される料理」と呼ぶのである。
ということで、そんな手間のかかるコンソメを家庭で作るとどうなるのか……。実際の難易度を細かくチェックしていこう。
家庭でコンソメを作るとどうなる?
レストランのコンソメは、一流のシェフが何時間もかけて作り上げるものだが、家庭で再現することはできるのだろうか? 当たり前の話だが、実際に作るとなると、かなりの手間と時間がかかることがわかる。
必要な材料と道具
基本的な材料は、以下のようなものになる。
- 肉類(牛スネ肉・鶏肉・ひき肉など) … 旨味の基盤
- 骨(牛骨・鶏ガラ) … コクと深みを出す
- 香味野菜(玉ねぎ・にんじん・セロリ) … 風味のアクセント
- 卵白 … 清澄化のために必要
- 水 … すべてのエキスを引き出すためのベース
道具としては、大きな鍋、目の細かいざるやガーゼなどが必要となる。
家庭で作る際の難しさ
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時間がかかる:煮込みだけで数時間、さらに清澄化に時間を要するため、合計で半日近くかかる。
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火加減の管理がシビア:強火にすると雑味が出てしまい、透明なスープにならない。弱火でじっくり煮込む必要がある。
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清澄化のコツが難しい:卵白とひき肉でアクを吸着させる工程は、温度や撹拌の仕方を間違えると濁ってしまう。
家庭でのコンソメ作りは実際どうなのか?
家庭で完璧なコンソメを作るのは、時間と手間を考えると現実的ではないかもしれない。しかし、多少の濁りを許容すれば、ブイヨンをしっかり取るだけでも十分美味しいスープが作れる。
また、圧力鍋を使って時短する方法や、市販のブイヨンをベースにして簡易的に作るレシピもある。あえて自作に挑戦することで、コンソメの奥深さを実感できるのは間違いない。
では、そんな家庭でのコンソメ作りと市販のコンソメキューブにはどんな違いがあるのか。手軽すぎるコンソメキューブにはどんな成分が入っているのか、今一度調べていく。
市販のコンソメキューブ vs 手作りの違い
コンソメと聞くと、真っ先に「コンソメキューブ」を思い浮かべる人も多いかもしれない。手作りのコンソメとはどのように違うのか? 成分や製法を比較しながら、その違いを見ていこう。
コンソメキューブの成分と特徴
市販のコンソメキューブは、一般的に以下のような成分で構成されている。
- 動物性エキス(牛・鶏) … 旨味のベース
- 食塩・砂糖 … 味のバランスを整える
- 酵母エキス・アミノ酸等(グルタミン酸ナトリウムなど) … 旨味を補強
- 香辛料・調味料 … 風味のアクセント
- 油脂 … コクを加える
これらの成分により、短時間で手軽に「それらしい味」が作れるのが特徴である。実際私はコンソメキューブがないと生きていけない……(笑)。カレーやポタージュ、ミートソースなど、日常の料理には欠かせない存在だ。
手作りコンソメとの違い
市販のコンソメキューブ | 手作りコンソメ | |
---|---|---|
味 | しっかり濃い・塩気強め | 繊細で自然な旨味 |
香り | 調味料由来の強めの香り | 素材の風味が際立つ |
食感 | ややオイリー | すっきり澄んだ口当たり |
調理時間 | 数秒で溶ける | 数時間〜半日以上 |
用途 | スープ・煮込み料理に幅広く使える | そのまま味わうのが理想 |
キューブと手作り、どちらが良い?
手作りのコンソメは、素材本来の旨味を生かした繊細な味わいが特徴。一方、市販のコンソメキューブは言うまでもなく、短時間で手軽に使える便利さが魅力だ。
時間があれば、料理の用途によって使い分けられれば良いかもしれない。例えば、スープとして味わうなら手作りのコンソメが理想的。ただ、煮込み料理や炒め物のコク出しにはキューブがかなり役立つ。
最後に、そんな日々大活躍なコンソメ様にはどのような歴史や面白いエピソードがあるのか? コンソメにまつわる雑学なぞを紹介しようと思う。
コンソメにまつわる雑学
コンソメはフレンチの伝統的なスープだが、実は意外な歴史やユニークな活用法がある。ここでは、コンソメにまつわる面白い雑学を紹介していく。
最高級のコンソメとは?
一般的なコンソメは牛や鶏をベースに作られるが、世界にはさらに高級なコンソメが存在する。例えば、トリュフやフォアグラを使ったもの、さらには金箔を浮かべたものまである。特に、「コンソメ・ダブル」と呼ばれるものは、通常のコンソメをさらに煮詰め、旨味を凝縮させた贅沢な一品だ。
また、一部の名店では、熟成肉を使ったコンソメや、ジビエをベースにしたコンソメなど、素材に徹底的にこだわったものも登場しているそうなので、私も一度は食してみたいと思っている。
日本とフランスでのコンソメの違い
フランス料理の伝統においてコンソメは、基本的に「そのまま味わう」ことが多い。一方、日本ではコンソメキューブが普及している影響もあり、「料理のベース」として使われることが一般的だ。
また、日本の市販のコンソメは、フランスの伝統的なコンソメと比べて塩味が強く、料理全体の味を引き締める役割を持つことが多い。そのため、スープとして単体で飲むよりも、煮込み料理や炒め物に使われることが一般的。
フレンチの本格的なコンソメを体験したことがない人は、ぜひ一度味わってみてほしい。
なぁんて綺麗な味……!ひと口飲むと、その透明感と深い旨味に思わずため息が出る。ひとりでに目がキラキラしてしまうほど美味しい。
まとめ
コンソメは、シンプルながらもフレンチの技術が詰まった奥深い料理。伝統的な作り方を守るには時間と手間がかかるが、その分、味わいは格別。
家庭での再現は正直難しいものの、市販のコンソメキューブを上手く活用すれば、日常の料理に手軽に旨味を加えることができる。
フレンチのスペシャリテとして提供される理由を知ると、次にコンソメを味わうとき、その一杯がより特別なものに感じられる……かもしれない。
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